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福岡高等裁判所 昭和32年(う)154号 判決 1957年4月11日

被告人 吉本寿子 外一名

次に職権を以て、被告人古川チキ関係の原判決を調査すると、本件起訴状記載の公訴事実のうち訴因第二は被告人吉本寿子は昭和三十一年二月六日頃右店舗に於て児童である右Sを同店従業婦として雇入れ……男客約六十名を相手に売淫させたものである、というのであつて、前掲訴因冒頭記載の事実並びに訴因第一、訴因第二を仔細に通覧対照すると、訴因第二も前掲訴因冒頭記載の事実に相関連しているものと解されるのであるが、訴因第一と訴因第二とは全く別個の犯罪にして、訴因第一は被告人古川チキと共同被告人吉本寿子に対する共同正犯の事実につき、訴因第二は共同被告人吉本寿子に対してのみそれぞれ公訴が提起されたもので、その後者については被告人古川チキに対して公訴の提起がされたものでないことが明らかである。しかも右訴因第一、訴因第二は共同被告人吉本寿子の関係においては併合罪の関係にあるものとして公訴提起にかかることは起訴状自体に徴し極めて明らかであるのみならず、原判決が右両訴因に対応して、判示第一、同第二事実を認定し、これ等に併合罪の規定を適用していることにより窺い知ることができる。しかるに原判決は右訴因第二に対応し、判示第二において、被告人古川チキ共同被告人吉本寿子両名の共同正犯としての事実認定をし、被告人古川チキに対し、該事実を児童福祉法第六十条第一項刑法第六十条をもつて問擬しているので、原判決は判示第二において、被告人古川チキに対し審判の請求を受けない事件につき判決をした違法があるものといわなければならない。尤も原審第三回公判調書によると、検察官は公訴事実第二「被告人吉本寿子」を「被告人両名」に訴因変更する旨の請求をなし、弁護人において異議がない旨陳述し、原審が訴因変更許可決定をしているので、右訴因第二は訴因変更により被告人古川チキと共同被告人吉本寿子両名の共謀による所為として適法に変更されたもののような観を呈しているが、しかし、訴因変更の許容されるには訴因につき適法な公訴の提起の存することを前提とするのであつて、公訴の提起のない場合、たとい被告人に異議のない場合と雖訴因変更の方法を以て公訴提起と同一の効果を発生せしめることの許容されるものでないことは「公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回、又は変更を許さなければならない」旨規定した刑事訴訟法第三百十二条第一項の法意に照らし、けだし寸疑を容れる余地はないであろう。然らば原判決は被告人古川チキ関係において刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第三号後段により破棄を免れない。

(裁判長裁判官 藤井亮 裁判官 岡本次郎 裁判官 中村荘十郎)

別紙(原審の児童福祉法違反事件の判決)

被告人 吉本寿子

被告人 古川チキ

主文

被告人両名を各懲役六月に処する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

一、犯罪事実

被告人両名は昭和三十年九月二十三日頃より福岡市東水茶屋町八十三番地において特殊飲食店を経営しているものであるが、

第一、同月二十六日頃右店舗において児童であるF子ことS(昭和十五年八月十日生)を同店従業婦として雇い入れ、その児童たるの年齢を法的に調査しない過失により児童たるの認識なくして同月二十九日頃から同三十一年二月始頃までの間右店舗において氏名不詳の男客約六十名を相手に淫行をなさしめ

第二、同三十一年二月六日頃同店舗において前記児童を同店従業婦として雇い入れその頃から同月下旬頃までの間右同所において氏名不詳の男客約六名を相手に淫行させ

以て夫々児童に淫行をさせる行為をなしたものである。

二、証拠の標目

1 吉本寿子の任意提出書

2 司法警察員作成の領置調書

3 樋口カズヱの司法巡査に対する供述調書

4 高橋由紀子の司法警察員に対する供述調書

5 Sの司法巡査に対する供述調書

6 同人の検察官に対する供述調書

7 古川チキの身上申立書

8 同人の司法警察員に対する供述調書

9 同人の検察官に対する供述調書

10 吉本寿子の身上申立書

11 同人の司法警察員に対する供述調書

12 同人の司法巡査に対する供述調書

13 同人の検察官に対する供述調書

14 Dの司法警察員に対する供述調書

15 Mの戸籍抄本

16 水揚帳

17 Sの直筆

18 東福岡料飲組合の営業証明書

19 証人高橋由紀子の証言

三、法律の適用

被告人両名の判示所為は判示第一について児童福祉法第六十条第三項第一項、刑法第六十条に、判示第二について児童福祉法第六十条第一項刑法第六十条に各該当するところ右の両所為は夫々刑法第四十五条前段の併合罪であるから先ず各罪について刑法第四十七条に則り所定刑中夫々懲役刑を選択し犯情重き判示第二の罪に法定の加重をなした刑期範囲内に於て被告人両名を夫々懲役六月に処すべく訴訟費用の負担は刑事訴訟法第百八十二条に則り主文の通り判決する。

検察官検事村上尚文立会

(昭和三十一年十二月十四日 福岡家庭裁判所 裁判官 藤巻三郎)

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